“地域を刺激する隠し味” SPICY™︎ NEIGHBORHOODが紡ぐ、新しい街づくり。
東京・下北沢。
カレー屋や古着店が並び、ライブハウスから音楽が溢れ、独特のカルチャーが息づくこの街で、新たな観光体験が生まれています。
その中心にあるのが、「街の隠し味」をコンセプトに掲げたMUSTARD™︎ HOTEL様(以下、MUSTARD™︎ HOTEL)。
ここでは、ゲストが「泊まる」だけでなく、街そのものを味わい尽くすことを提案しています。
ただの観光地紹介とは異なり、ガイドブックに載る有名店ではなく、地元の小さな店舗やアーティスト、下北沢ならではの「深い」魅力にアクセスできる。
それを実現するのが、ホテルを拠点とした地域連携プロジェクト”SPICY™︎ NEIGHBORHOOD”です。
「下北沢をもっと面白くしたい。」
そんな想いから始まったこのプロジェクトは、地域に眠る無数の個性を引き出し、訪れる人々に特別な体験を届けます。
この試みが、いかに生まれ、どのように地域を変えていったのか。
その背景を探るべく、MUSTARD™︎ HOTEL支配人である吉田昌平さんにお話を伺いました。
1. SPICY™︎ NEIGHBORHOOD 誕生の背景
SPICY™︎ NEIGHBORHOODがどのように生まれたのか。その背景には、MUSTARD™︎ HOTELさんが抱える地域とのつながりに関する課題がありました。
ーSPICY™︎ NEIGHBORHOODというプロジェクトはどういった背景で立ち上がったのでしょうか。
MUSTARD™︎ HOTELは「街の隠し味」をコンセプトに、地域の店舗と連携しながら運営を進めてきました。月間の宿泊ゲスト数は約3,200人に達していたのですが、その方々にどうやって下北沢をもっと楽しんでもらうか、ということを常に考えていました。これまで、MUSTARD™︎HOTELの運営会社である株式会社GREENINGが同じく運営するreloadのような商業施設と提携することで地域との関係性を作ってきたのですが、個人経営のディープな店舗とも連携を深めたいと思うようになりました。
ただ、ホテルは24時間体制で稼働しているため、そうした活動に十分なリソースを割くことが難しい現実がありました。営業活動や関係構築をしようと思っても、なかなか手が回らなかった中で、GEKIさんから提案を受け、「下北沢の隠れた魅力をゲストに伝えるプロジェクト」という形で進められるなら、ぜひやりたいと考えました。
ー初めから下北沢を舞台にプロジェクトを進めようと決めていたのですか?
当初は下北沢というテーマがはっきり決まっていたわけではありませんでした。でも、ちょうどGEKIさんが空間プロデュースやコミュニティプロデュースに力を入れていきたいと考えていたタイミングで、「MUSTARD™︎ HOTELを舞台に何かできないか」というお話をいただきました。ホテルは地域に開かれた場所であり、訪れるゲストと地域をつなぐ役割を果たせると考えています。そこを活用して新しい取り組みができるとしたら、MUSTARD™︎ HOTELにとっても非常に価値のあることだと考えました。
ー具体的には、どのような点がプロジェクトを進めるきっかけになったのでしょうか。
下北沢の商店街や自治体には、比較的年齢層の高い方々が多く、地域活性化のためには、同世代のプレイヤーが表舞台に出る必要があると感じていました。GEKIさんは、地域とつながりを持ちながら、若い感性で新しい視点を持っている集団だったので、彼らの提案に非常に魅力を感じました。プロジェクトを通じて、MUSTARD™︎ HOTELが単なる宿泊施設としてではなく、地域の魅力を引き出す拠点となれる。この可能性に賭けてみたいと思い、SPICY™︎ NEIGHBORHOODがスタートしました。
2. SPICY™︎ NEIGHBORHOODの軌跡
地域の課題と『ホテルを地域のプラットフォームにする』というビジョンが交わり、始動したSPICY™︎ NEIGHBORHOOD。その進展と具体的な取り組みをひも解きます。
ーGEKIからの提案を受けた際、MUSTARD™︎ HOTELさんとしてどのような期待を持っていたのでしょうか?
GEKIさんのクリエイティブ力に対する信頼がありましたし、彼らのネットワークにも期待していました。特に、GEKIさんのメンバーには下北沢の個人店と深くつながりがある方々が多かったので、その点が大きな強みだと感じました。ホテルのスタッフが直接地域のお店に営業に行くよりも、GEKIさんのように地域と既に関係を持っている人たちが橋渡し役を担ってくれる方が、ずっとスムーズに進むと考えたんです。
ープロジェクトを進める上で、地域の事業者からどのような反応がありましたか?
もともとMUSTARD™︎ HOTELに興味を持ってくれている方も多かったのですが、「どのような人がホテルのメンバーなのか」「具体的にどのような取り組みをしているのか」が見えづらいと言われることもありました。GEKIさんが関わることで、同年代の感覚を持つメンバーが地域に密接に関わっている姿が見えて、親近感を持ってもらえたのだと思います。それが地域の人々に安心感を与えたのではないでしょうか。
ープロジェクトが始まってから、どのような点が改善されたと感じますか?
一番大きな改善点は、横のつながりが広がったことです。このプロジェクトを通じて、SUNNY HOP -BEER & HOT DOG SHOP-さんや、セルフ写真館のmederu studioさんといったお店同士、またMUSTARD™︎ HOTELが運営会社である株式会社GREENINGが同じく運営するライブハウスのADRIFTや商業施設のreloadと協力している背景が、地域全体に再認識されました。
例えば、各事業者に紹介された方がMUSTARD™︎ HOTELで何かイベントをしたいと言ってくださることが増えたり、SUNNY HOPさんの周年イベントがADRIFTで開催されるなど、横のつながりが新しい活動を生んでいます。
ー横のつながりが強化されることで、地域全体の活性化につながりますよね。
そうですね。流動的な動きが活発になることで、ビジネスにも良い影響がありました。また、プロジェクトに参加している各ステークホルダーの目的が共通していたので、GEKIさんに紹介いただいたメンバーともスムーズに協力が進んだと感じています。GEKIさんが持つ視点と努力があったからこそ、このプロジェクトがうまく進んだと思っています。
3. 地域活性化と新たな観光体験の形
SPICY™︎ NEIGHBORHOODはどのような成果をもたらし、地域や観光にどのような影響を与えたのか。
このプロジェクトが地域に根付いた実績と、観光の新しい形をどのように実現したのかを教えてくださいました。
ープロジェクトを進められてきた中で、何を持って成功とされていましたか?
半年以上経った今振り返ると、一つのゴールは「SPICY™︎ NEIGHBORHOODというコミュニティが持続可能であり続けること」です。GEKIさんのサポートがなくても、自然にコミュニティが動き続ける状態が理想的ですね。SPICY™︎ NEIGHBORHOODは一過性のイベントではなく、もっと長く続くものであるべきだと考えています。
ー今、その理想にどのくらい近づいていると感じますか?
実際に閉店してしまったお店もある一方で、株式会社あおときさんやSUNNY HOPさんのように、今もアクティブに活動しているお店もたくさんあります。こうしたお店がプロジェクトを通じてつながりを深め、街全体の活性化につながっていると感じています。このコミュニティがさらに成長し、街全体が持続可能な文化を育んでいければ、それが理想的な成果だと思います。
ープロジェクトを振り返って、成果を表す具体例や指標があれば教えてください。
物販の売り上げは一つの大きな成果です。コラボレーションアイテムがものによっては完売しました。株式会社あおときさん主催のマルシェや周年イベントがMUSTARD™︎ HOTELで開催されたり、イベントが継続的に行われるようになったことも成果の一つです。
さらに、宿泊者がルームキーを見せるとSUNNY HOPさんで特典が受けられるキャンペーンも進行中で、これが始まればさらに定量的な成果が増えると思います。例えば、「MUSTARD™︎ HOTELのルームキーを見せればマスタードトッピング無料」や、「ドリンク無料」といった形で、宿泊者に街体験を提供する仕組みを考えています。このように、提携先が増えたことで、地域全体の動きが活発になったと感じています。
ー地域とのつながりや提携先が増えた点は印象的ですね。そのほかに心に残る変化があればお聞かせください。
地域住民や観光客が下北沢の文化を新たな視点で体験する機会が増えたことです。例えば、プロジェクト内の「SHIMOKITA PLAYLIST」という企画では、地域の方々におすすめのスポットをキュレーションしていただきました。私もキュレーターの一人として参加したのですが、宿泊のお客様から「ここ、すごく良かったよ」といった声を直接いただくことができました。この取り組みは、①地域のおすすめスポット、②キュレーターとしての人、③音楽を掛け合わせたもので、非常に独自性があるものだと思います。
ーSHIMOKITA PLAYLISTが観光客にも地域住民にも受け入れられた理由は何だと思われますか?
地域のディープな魅力を見せることができたからだと思います。例えば、ホテルで販売している可愛いグッズを手に取った人が、「このお店ってどんなところだろう?」と調べてみて、実際に足を運ぶケースが増えました。こうした流れを通じて、オンラインでは見つけにくいローカルな情報をホテルが届けることで、新しい流入経路を作れたと感じています。こうした取り組みを通じて、MUSTARD™︎ HOTELが単なる宿泊施設ではなく、地域を深く知る入り口としての役割を果たせるようになったと感じます。
4. SPICY™︎ NEIGHBORHOODという名に込めた思い
「SPICY™︎ NEIGHBORHOOD」ーーその名前から感じるのは、刺激的でユニーク、そして新しい発見への期待感。この名前に込められた想いを深掘りしていきます。
ーGEKIとMUSTARD™︎ HOTELが共通の目的を持ち、協力して進められたSPICY™︎ NEIGHBORHOODプロジェクトですが、この名前にはどのような意図が込められているのでしょうか?
最初はMUSTARD™︎ HOTELのカラーから“YELLOW NEIGHBORHOOD”を考えていました。でも、それではホテルが主役になりすぎると感じたんです。MUSTARD™︎ HOTELも地域の一部であり、関わるお店や人々も同じ地域の一員。このプロジェクトでは地域全体を主役にしたいと考えました。
そこで、地域全体を表す言葉を探し、“SPICY”という要素が浮かびました。この言葉には、ガイドブックに載らない地元のユニークで刺激的なお店や人々を象徴する意味があります。そして、この「刺激」というコンセプトはGEKIの挑戦的な姿勢とも重なります。
こうして生まれた“SPICY™︎ NEIGHBORHOOD”には、「刺激的な体験を通じて新しい視点を提供する」という思いが込められています。実際、刺激的なお店が集まったのもGEKIさんの挑戦があってこそ。彼らの取り組みがコミュニティや人々のつながりを生んでいると感じています。
ーSPICY™︎ NEIGHBORHOODを進める上で、特に重視していた要素はありますか?
街の風景や建物は変化していく「ハードな部分」ですよね。でも、文化や風土といった「ソフトな部分」はそう簡単に変わりません。そして、その「ソフト」が街の色を作っていると考えています。
例えば渋谷の再開発でも、大型商業施設やホテルが中心になっているように見えて、実際に街の色を作っているのは、そこに長年住む個人店の人々だと思うのです。だからこそ、文化やその街の「色」を守るには、個人で頑張っているお店や人々に焦点を当てることが大切だと感じました。
さらに、僕たちと同世代の人々がその一員であることが、親近感を生むきっかけにもなります。チェーン店ではなく、少しわかりにくい場所でも魅力があるお店を積極的に巻き込んでいこう、そういった思いで進めました。
5. 持続可能なコミュニティと広がる可能性
SPICY™︎ NEIGHBORHOODを成功に導いたMUSTARD™︎ HOTEL。
今後、彼らが目指す新しい展開や、企業として定着させたい理念とはどのようなものなのでしょうか。
ーMUSTARD™︎ HOTELさんとして、今後企業活動を通じて定着させたい文化や理念について教えてください。
私たちのミッションの一つに、「1杯のコーヒー作りから始める街づくり」という言葉があります。このシンプルな一杯をきっかけに、人と人がつながり、街が少しずつ変化していく。そんな考え方を大切にしています。
また、「風景を作る」というテーマもあります。MUSTARD™︎ HOTELは物理的な「ハード」として存在していますが、それだけでは地域に新しい価値を生み出すのは難しい。だからこそ、その「ハード」に付随する「ソフトコンテンツ」を通じて、街の中で変わらないものと変わっていくものをどう表現できるかを追求したいと考えています。
ー具体的には、どのような形で地域の良さを伝えていきたいとお考えですか?
下北沢の良さを守りながら、訪れる旅行者や地元の方々、それぞれの視点で伝えられる形にすることが重要だと思っています。
その一方で、文化やその土地の色は、見る人によって解釈が異なりますよね。完全に均一なものにすることはできませんし、それがむしろ魅力だとも思っています。MUSTARD™︎ HOTELを一つのフィルターとして、その個性が少し偏って見えることがあったとしても、多様な人々が行き交える場所を目指したいです。
ー「偏り」と「多様性」を同時に考えるというのは面白いアプローチですね。
例えば、観光に慣れた中級者や上級者の旅行者が求めるディープな体験にも応えつつ、初めて下北沢に来た人でも楽しめるような、一般的な案内も行う。こうした二面性を持つことで、幅広い層に新しい発見を提供できる施設になりたいと思っています。そして、「このホテルに泊まると、まだ知らなかった新しい発見がある」と思ってもらえるような存在になれたら嬉しいですね。
ーまさに、旅の拠点として新しい可能性を生み出すホテルですね。
はい。MUSTARD™︎ HOTELが地域にとっても、旅行者にとっても価値のある存在であり続けること。それが私たちの目指す姿です。そして、それを実現するためには、これからも地域とともに成長し続けることが必要だと考えています。
「街の色を作るのは、建物ではなく、人々の感情やライフスタイルです。」ー吉田昌平さん
下北沢を舞台に、MUSTARD™︎ HOTELと共に挑んだSPICY™︎ NEIGHBORHOODは、地域と観光客をつなぐ新しい価値を創造しました。
地元の事業者と信頼関係を築き、ガイドブックには載らない特別な体験を提供するこのプロジェクトは、地域全体の活性化にも大きく貢献しています。
SPICY™︎ NEIGHBORHOODは、地域の魅力を守りながら、新しい文化や体験を通じて街の未来を描き続ける。
そして訪れる人々に「まだ知らなかった新しい発見」を届ける。それがMUSTARD™︎ HOTELのこれからの挑戦です。