2026.03.10

羽田空港という“世界の交差点”で伝える、Cross Borders! というメッセージ

羽田空港第3ターミナルに店を構える「NOREN」。 かつては“面白てぃしゃつ屋”として親しまれてきたこの場所は、いま「Cross Borders!」という新たなコンセプトのもと、ブランドとしての再定義に挑んでいる。

その背景にあるのは、日本の“受容性”という独自の文化的態度だ。 今回の対談では、コラゾン坂口さんに、「NOREN」リブランディングの背景、Cross Borders!という思想に至った原点、 そして私たちとの出会いから生まれた新たな挑戦について伺った。

“お土産屋”から“語れるブランド”へ。

分断が語られる時代に、日本はどのようなヒントを提示できるのか。 空港という交差点の上で始まった、J+との取り組みついて、紐解いていきたい。

インタビュイー:NOREN ブランドマネージャー坂口 理明

日本文化の「語り部」として、羽田空港第3ターミナル内の旗艦店『NOREN』の運営およびブランドマネジメントを統括。「お土産を、文化を越えるきっかけに」をミッションに掲げ、多言語での接客だけでなく、プロダクトの背景にある物語を伝える体験設計に注力している。世界中のクリエイターや旅人と対話を重ねながら、現代のライフスタイルに溶け込む日本独自の精神性を発信し続けている。

インタビュワー:株式会社GEKI PRODUCER 副島 弘輝

1995年生まれ横浜育ち。新卒で不動産デベロッパーである株式会社コスモスイニシアに入社し不動産の用地仕入れ開発に従事。その後株式会社ワンキャリアにて事業開発、経営企画に従事。エンジニア向けの新規サービス立ち上げや、ブランドキャンペーン、学生スタートアップの支援などを担当。GEKIでは、新規事業開発、事業企画、人事領域を管掌。


1. 出会いとプロジェクトの始まり

副島:

今回はお忙しい中、ありがとうございます。

まず、コラゾンさんと私たちがどのように出会い、プロジェクトが進んでいったのか。改めて経緯を伺ってもよろしいですか?

坂口さん:

きっかけは別のプロジェクトでご一緒していたことですね。その時に感じたのは、ひと言で言うと「愛」でした。会社や事業に対する愛がある。

それが熱意や、こちらの話をしっかり聴いてくれる姿勢に表れていた。加えて、編集力やクリエイティブの力がすごくて、僕らにないものを持っていた。

欲しかった力だったんです。そうした流れの中で「プロダクトもやられている」という話になり、当時は「抹茶をつくりましょう」みたいな話からしていましたね。


2. 「NOREN」リブランディングの背景:なぜ“Cross Borders!”へ

副島:

NORENさんの取り組みとして、今年夏頃からの流れの中で「Cross Borders!」というコンセプトを再策定されたと思います。背景や経緯を教えてください。

坂口さん:

前提として、もともと僕らが引き継いだのは「面白てぃしゃつ屋」というお店でした。事業承継で引き継いで運営しています。羽田空港の第3ターミナルができた時からのお店で、当時は「専門店街」をつくろうという空港側の意図も強く、僕らの場所は“Tシャツ専門店”として始まっています。

ただ、空港はデベロッパーとは少し違って、丁寧である一方で動きがゆっくり。コロナ前から「お店を変えたい」という話はあったものの、担当変更や承認プロセスで止まりやすく、そこにコロナが来てしまった。空港自体が止まっていた時期がありました。

その後、21〜22年で少しずつ回復して、24年頃から改めて投げ始めた。僕もその頃から入って交渉し始めました。

インタビュアー:

なるほど。そこで見えてきた課題はどんなものだったのでしょう?

坂口さん:

空港は来店客数が多く、集客力はある。ただ一方で“一見さん商売”になりやすい。粘着性が弱いというか、次につながりにくい。観光地・お土産屋としては自然な面もあるけれど、「ただのお土産屋で終わるのはもったいない」と思ったんです。

だから、「NOREN」という店のブランド自体をつくって、「NORENに行きたい」「NORENの商品を買いたい」と思ってもらえる状態にしたい。そのためにリブランディングしました。


3. 「NOREN」というブランドの変遷:Discover Wonderland, Japan! から Cross Borders!へ

副島:

そもそも「NOREN」というブランドは以前からあったんですか?

坂口さん:

ありました。詳しい起点は全部は分からないですが、直営の1号店は京都・祇園。そこから嵐山、浅草、京都の京極・四条…と増えていって、コロナ前は運営店舗が14店まで増えました。

当時のスローガンは「Discover Wonderland, Japan!」。いまの「Cross Borders!」とは違っていました。

インタビュアー:

当時はどんな思想だったのでしょう?

坂口さん:

2009年頃は、海外から見た日本像がまだステレオタイプに寄っていた。そこに対して「日本にはもっといろんな日本があるよ」と伝える。コピーとしては「わびさびからサブカルチャーまで」といった世界観でした。伝統工芸的な京都の日本もあれば、原宿のようなサブカルもある。そういう“多様な日本”を発信する店だった。

ただ観光立国が進み、プレイヤーも増え、コロナ禍でNetflixやAmazonなどを通じて日本のアニメ・文化が世界に広がったことで、そのコンセプトはある意味“役目を果たした”感覚も出てきた。そこで再定義が必要になりました。

副島:

そこから「Cross Borders!」へ?

坂口さん:

はい。分断や多様性が語られる時代に、僕らがつなげられる社会的な切り口は何かを考えた時に、日本の「受容性(受け入れて咀嚼し、自分たちなりに変えていく力)」にヒントがあると思ったんです。

たとえば“たらこパスタ”。海外の文化をリスペクトして取り入れつつ、日本の食材をのせ、海苔をのせ、箸で食べるところまで変えていく。これって簡単にできることじゃない。

その受容性は、平和につながるヒントにもなるかもしれない。そう考えて「Cross Borders!(Cross Borders!)」に変えていきました。

9. 坂口さん自身が「日本の受容性」に関心を持った原点

副島:

坂口さんご自身が、たらこパスタの例にあるような「受容性」や「日本という方法」に関心を持った原点はどこにありますか?

坂口さん:

音楽の文脈でもありますね。たとえばジャズ。日本人が“真似事”と言われながらも、真似ても真似ても自分たちの色が出る。それは何なんだろう、と。

僕は大学で建築もやっていたんですが、日本のキッチンは大きい。和食も洋食も中華もつくる。海外は外食が多い文化もあるけど、日本人は自分で作る。その“受容性の高さ”って、ちょっと頭おかしいくらいだと思っていて(笑)。

その後、コラゾンに入って2年目にECを担当し、以前のNORENのオンラインサイトを運用した時に、「これは和っぽくない」と代表が言った。そこで「和とは何か」が全く分からず、その日に書店へ走って本を探しました。

そこで出会ったのが松岡正剛さんの『日本という方法』。タイトルからして衝撃で、「テーマで語るな、方法で語れ」という趣旨が刺さりました。

4. 取扱開始のタイミング:共感が決め手になった瞬間

副島:

私たちとしては、9月頃に「Cross Borders!」を拝見して「これは伝えたいことが一致している」と感じ、ご相談した経緯があります。当時、NORENさん側の課題感はどんなものがありましたか?

坂口さん:

大きく3つあります。1つ目は、面白てぃしゃつ屋から「NOREN」にリブランディングしたものの、センターピンになる“象徴的な商品”がなかったこと。「これが“ザ・NOREN”だ」と言えるものが必要でした。

2つ目は、お土産からの脱却。お土産そのものは「記憶の回想装置」だと思うし素晴らしい。ただ、購入した後に“次につながらない”。日常の中にどう入り込めるかが課題でした。

3つ目は、それを形にできるパートナーの不在。思想を理解し、編集し、クリエイティブに落とし込める人が社内にいない。スピードも含めて、外部パートナーを探していたんです。


5. 実施してみて:価格と反応、そして“想定外の効用”

副島:

12月末頃から私達の商品(J+)取り扱いが始まりました。率直に、やってみて良かったこと/トライしたいことを伺えますか?

坂口さん:

まず結果として「この価格で通るんだ」という驚きがありました。うちの高額ラインは15,000円のTシャツで、それが売上では強い。でも、今回みたいにさらに高価格帯(42,000円)でも、商品の背景や文脈があればいける。取引条件の部分でもチャレンジしやすい形にしていただいたので、全力でやろうと思えた。初速から反応があって、自信になりました。

売上で言えば、500円が100回転するのと、5万円が1回転するのは労力が違う。そういう意味でも手応えがありました。

副島:

価格以外で、反応や驚きはありましたか?

坂口さん:

実は私達も驚きだったのですが、インナーブランディングの面が大きかったです。代表や僕は「このままのお土産屋では埋もれる、変わらなきゃ」という危機感で進んでいる。でもショップのスタッフはまだ同じ絵を見切れていない感覚がありました。

その中で、J+さんの商品が動いたり、お客様が喜んでくれたりすると、「あ、こういうことなんだ」と現場が体感できる。狙っていたわけではないけど、想定外に効いた部分でした。

副島:

“背景を説明することで、売れる”こと自体が、良い体験だったと。

坂口さん:

そうですね。機能で売るのではなく、背景を含めて“日本をプレゼンテーションする”機会になった。そこが刺さったと思います。


6. “語れる”と“入りやすい”の両立:NORENが目指すバランス

インタビュアー:

今後の方向性として、NORENをどうしていきたいかの想いはありますか?

坂口さん:

ギャラリーみたいにはしたくないんです。伝統工芸を背負っている空気って素晴らしい反面、つまらないと感じる瞬間もある。

だから、ユーモア、わかりやすさ、入りやすさはこだわりたい。お土産要素を残したいのもそのためです。全部が“重い文化”になると、お客様を選んでしまう。

ただ一方で、表層だけじゃなく「実はこうなんだ」と語れる深みも必要。そのバランスを保ちたいですね。


7. これからのチャレンジ:日常へ、精神性へ、そして“豊かさ”へ

副島:

今後チャレンジしたいことはありますか?

坂口さん:

1つは、カテゴリーの変容です。

お土産から、生活・日常に入っていくアイテムを増やしたい。Somewayの商品とも相性がいいと思いますし、「瞑想」や「所作/儀式」みたいな日本の機微にも挑戦したい。

もう1つは、精神性や背景、文化をもっと伝えること。たとえば「服を着る」ではなく日本独特の「羽織る」「纏う」と言うような感覚。

風呂敷も、西洋のバッグのように用途が固定されず、対象に合わせて形を変えられる。道具と所作が結びついている。ブッシュクラフトみたいに、道具を最小限にして現地で工夫する“豊かさ”とも繋がると思っていて、そういう価値観を“押しつけがましくない形”として添えられると、お客様が手に取りやすくなるはずです。

その「現代のライフスタイルにどう落とすか」のセンスは、僕らの弱いところなので、一緒にできると面白いと思っています。


10. NORENが実現したい世界:Cross Borders! の先にある「Belonging」

インタビュアー:

坂口さんとして、NOREN/コラゾンとして浸透させたい価値観や、実現したい世界はありますか?

坂口さん:

「日本という、優しく世界を受け入れる方法」を提示したいですね。押し付けたいわけではないけれど、分断の時代にヒントになる。

正月は初詣、夏はお墓参り、ハロウィンで騒いで、クリスマスもやる。厳格な一神教の価値観から見るとポリシーがない民族にも見えるかもしれない。でも僕はそれを肯定的に捉えたい。

ちなみに「Cross Borders!」は本当は続きがあって、最初は「Cross Borders, Create Belonging」まで入れたかった。Belonging は“所属”だけじゃなく“居場所”のニュアンスです。

ただ、いきなりそこまで言うとインナーブランディング的に置き去りになるので、まずは一歩目として Cross Borders! にしました。最近、面接で「父がアメリカ人で辛い思いをしたけど、この記事を見て“自分がいてもいい”と思えた」と言ってくれた人がいた。ちゃんと伝わっていると感じたし、そういう人が居場所を見つけられるブランドにしたい。世界に向けてもしっかり打ち出していきたいです。


11. これからの展望について:世界に店を出す

副島:

展望ベースで構いません。店舗としての“野望”はありますか?

坂口さん:

世界に店を出したいです。現地発信して、根付く形で。お土産だと、その場所にいるから成立する面が大きい。ミュージアムショップも美術館の中だから成立する。でも、精神性や日常的な商品として生まれ変われたら、現地で発信できると思う。

MoMA は上手いですよね。美術を“日常に取り入れる”提案ができている。そういう空気感を、NOREN/日本でどう落とし込むかが重要だと思っています。

インタビューエピローグ

編集後記

空港という「交差点」に立つブランドが、“Cross Borders!”を掲げる必然性。今回のインタビューを通して強く感じたのは、坂口さんの言葉の根底にある、日本という国の「受容性」への信頼でした。

外から来たものを拒まず、混ぜ、変え、楽しむ。その”柔らかさ”は、分断が深まる時代にこそ意味を持つのかもしれません。

また、J+の商品導入が売上以上に“インナーブランディング”として機能したという話も印象的でした。思想は掲げるだけでは浸透しない。体験を通して初めて、現場に根を張る。通過点であるはずの空港から、「居場所」をつくろうとする挑戦。

その静かに燃える熱意に、これからの可能性を感じるインタビューになりました。

参考URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000022992.html