言葉を超えて、未来を共に—Neu Worldが切り拓く新しい世界。

脳と機械がつながる未来を想像したことはありますか? 言葉を発さずとも、思考だけで意思を伝え、日常が広がっていくーー。そんな革新を目指すのは、AIとニューロテクノロジー(脳と機械を接続する技術)の最先端を走るプロジェクト、内閣府ムーンショット型研究開発事業目標1 金井プロジェクトInternet of Brains(以下IoB)です。
IoBが手掛けるサイエンスコミュニケーションプロジェクト『Neu World』(以下、Neu World)は、最先端技術を社会に実装し、誰もが自由に、自分らしく生きられる未来を描いています。
夢物語では終わらない Neu World の挑戦。IoB参画企業の株式会社アラヤの宮田龍様と、Neu World発足時にクリエイティブディレクションを担当されたAcademimicの浅井順也様に、ビジョンやプロジェクトの舞台裏を伺いました。
1. 未来の社会を共に描く「Neu World」の挑戦
脳と機械が繋がることで広がる新しい世界。Neu Worldとはどのようなプロジェクトなのか、語っていただきました。
ーNeuという言葉から、脳科学や神経に関連するイメージを抱く方も多いと思いますが、本プロジェクトについてお聞かせください。
- 宮田様:
「Neu World」というプロジェクト名は、浅井さんがつけてくださって、とても気に入っています。ニューロテクノロジーとは、脳神経科学をベースにした技術です。特に脳と機械を接続するBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)という技術により、考えるだけでロボットを操作したり、言葉を発することが難しい方々が自分の思いや意図を他者に伝えることができるようになります。この技術は、特に身体的な制約や、言葉で表現できない困難を抱える方々にとって大きな可能性を秘めているのですが、Neu World は単に技術開発を目的とするものではなく、社会にその技術を実装することで、より自由に、そして自分らしく生きられる社会を2050年までに作り出すことを目指しています。


2. 未来技術を伝えるためのブランドサイトの誕生
未来技術の可能性を伝えるために選んだ、ブランドサイトというプラットフォーム。その決断の背景に、どのようなストーリーがあったのでしょうか。
ーなぜブランドサイト制作に取り組むことになったのでしょうか?
- 宮田様:
最初に直面したのは、国の大きなプロジェクトでありながら、普段、科学やテクノロジーに高い関心がない人々に知られていなかったという状況でした。技術的な成果や論文が発表されても、それが社会にどのように役立つのかが伝わりにくかったのです。研究成果を広めるだけでなく、社会に実装するためには「どう伝えるか」という点が非常に重要でした。
ーその背景があって、GEKIにビジョンを形にする役割を託したのですね。
- 宮田様:
はい。GEKIさんには、単にブランドサイトを作るだけではなく、この技術がどう未来を変えるのか、そして社会にどう役立つのかをわかりやすく伝えるためのプラットフォームを作ってほしいとお伝えしました。技術的な側面を一般の人々にもっと親しみやすく、面白く伝えてもらうためには、デザインや体験そのものが非常に重要だと考えていました。 - 浅井様:
依頼のきっかけは、GEKIさんが手がけた『ハマらない就活展2022』というプロジェクトのイベントレポートです。クリエイティブでありながら直感的にアクセスできる設計に感銘を受け、まさにNeu Worldのような未来技術を伝えるプロジェクトにもピッタリだと感じ、ご連絡しました。打ち合わせでGEKIさんの熱量が伝わり、一緒に未来を描けると確信したことを覚えています。
3. 未来を描くデザインー日常と非日常の境界線
革新的なデザインと、未来体験の仕掛けをどのように実現し、どのような挑戦があったのか、そのプロセスを追います。
ーブランドサイトに求めた要件として、特に大切にしていたことを教えてください。
- 宮田様:
要件として大きく3つのポイントをお伝えしました。
1つ目は、「堅い」イメージにはしたくないということ。一般の方々が見ても、研究の成果や技術に興味を持てるようなワクワク感を感じてもらえる体験にしたかったのです。
2つ目に、私たちが作りたかったのは「SF作品」。技術的な説明ではなく、面白いストーリーを感じてもらいたかったのです。たとえば、よくある学習漫画ではなく、人気漫画シリーズのように思わず読んでしまう、そんな作品にしたいと考えていました。
3つ目は、プロジェクトを広報としてだけに使いたい訳ではなかったという点です。あくまでも「未来をユーザーと一緒に考え、どうしていきたいかをディスカッションするためのツール」というスタンスを強調したかったので、未来に向けて意見を交換し、可能性を広げるというテーマが伝わるようなデザインをお願いしました。
ーユニークなデザインに仕上がりましたが、その点についてどう感じられましたか?
- 浅井様:
私たちは『日常と非日常の対比』というテーマを掲げ、インターネット上での現実と非現実の境界線や、新しい技術の実装がもたらすワクワク感を表現したいと考えていました。結果として、イメージ以上の成果が得られたと感じています。Neu Worldでは、正解や不正解のない未来をみんなで考えるプロジェクトを目指しています。企業コンテンツに思想が欠けるケースもありますが、今回はそうではなく、しっかりと思想を反映したものになったと思います。
ー理想を実現するために、GEKIに期待した点は何でしたか?
- 浅井様:
GEKIさんを選んだ理由は、一緒に作り上げる熱量が合いそうだと感じた点と、印象的なステートメントやコピーの魅力です。また、社内メンバーがサイトの更新に関われるよう、STUDIOのようなツールの活用も決め手でした。完成したサイトを見て、自分たちでも運用できると確信しました。
ー実際に出来上がったブランドサイトは、お二人の理想に近いのでしょうか。
- 宮田様:
私は理想に近いと思っています。このサイトを見たときに『研究プロジェクトのサイトだ』とは絶対に思わないだろうな、と感じます。また、色やフォント、少しノイズがかかっている部分が、私が浅井さんに無理難題として伝えた『未来の不透明さ』や『複数性』といった要素にぴったりハマっていて、すごくテンションが上がったことを覚えています。


4. 科学と社会をつなぎ反響を生んだ新たな可能性
未来技術をより身近に、そして魅力的に。ブランドサイトが描いた新たなストーリーと、その反響が生み出す次なる可能性に迫ります。
ーブランドサイト公開時、目標数値やゴールは設定されていたのでしょうか?
- 宮田様:
抽象的な目標として、数ある研究プロジェクトサイトの中で、圧倒的にアクセス数を上回ることを目指していました。公開と同時にその目標はすぐに達成できたと思っています。実際に、最初の2日間で1000件を超えるアクセスがありました。 - 浅井様:
公開から1ヶ月で、普段研究プロジェクトのサイトを見ないような方々もSNS等で反応していましたし、3作品目公開時には1週間で2万PVほどの数字になりました。
ーかなり大きな数値ですね。コメントがサイトにいくつも載っていますが、これらはSNSでシェアされたコメントを抜粋しているのですか?
- 宮田様:
はい、双方向性を出したいという私の思いを反映していただき、作品を公開するたびに、「#NeuWorld」で感想を募集しています。現在、計200件ほどの感想が投稿されており、その中からネガティブな意見も含めて反映させています。
ーブランドサイトを作る前後で、どのように浸透度が変わったと感じますか?
- 宮田様:
最初は、脳研究や作家のファン、サイエンスコミュニケーション業界の方々が注目してくれていた印象が強かったですが、最近では一般の方々や漫画業界の方々にも見られるようになりました。一般の方々が1年間でSF大賞にふさわしいと思った作品を投稿する「日本SF大賞」の一般公募において、今年はNeu Worldで公開した作品が複数投票され、さらにNeu Worldのプロジェクト自体にも投票があったことが、ここ最近で一番嬉しかったニュースですね。
ー素晴らしいですね!Neu Worldのイメージも、サイトが作られる前後で大きく変わったのでしょうか。
- 宮田様:
そうですね。研究だけしていると、取り上げられるメディアの範囲が科学系のメディアなどに限定されてしまいます。しかし、ブランドサイトを作成したことで、例えばラジオ局TOKYO FMから出演オファーが来たり、科学とは関係のないメディアからもインタビュー依頼が増えました。これも当初設定していた目標の一つで、全く関係ないカルチャー雑誌などにもリーチしたいという思いが叶い始めていると感じています。

5. 科学コミュニケーションを超えた未来社会
科学コミュニケーションを超えた文化は、どのように未来社会に根付くのでしょうか。
Neu Worldが目指す「対話」と「共感」を軸に、プロジェクトの目標と広がりを探ります。
ー現在活動しているNeu Worldのプロジェクトを通じて、最終的にどのような文化や価値観を世の中に定着させたいですか?
- 宮田様:
私たちが目指すのは、科学コミュニケーションの新しい形の創造です。一般の人々が「未来への想い」や「研究者への期待」を気軽に発信できる場を作ることで、研究と社会の間に信頼と対話を生み出したいと考えています。たとえば、漫画・雑誌の感想をSNSに投稿するように、Neu Worldの作品についても自然に感想や意見を共有してもらえる環境を目指しています。そうした対話が広がり、新しい法律の成立や技術の安全な実装といった社会変化につながることが、私たちの目標です。また、この活動を通じて「異なる価値観に気づく」機会を提供したいと考えています。他者の意見に触れる中で、自分の考え以外にも多様な考えがあることに気づき、人々がより優しく寛容になれるきっかけを提供できればと願っています。 - 浅井様:
Neu Worldのようなプロジェクトが、さらに多くの研究分野に広がってほしいと願っています。研究の伝え方は時代とともに進化するべきであり、たとえば漫画や小説といった新しいアウトプットを工夫することで、これまで届かなかった層にもアプローチできる可能性があります。こうした新しい試みが他のプロジェクトにも広がれば、それ以上に楽しいことはないと思います。
ー研究というと閉ざされた印象がありますが、その過程や研究者の思いが一般の方々に伝わる形は非常に意義深いですね。
- 浅井様:
そうですね。このプロジェクトが単発で終わらず、永続的に続いていくことが理想です。宮田さんには、この活動を一つの「カルチャー」として定着させていただきたいと思っています。 - 宮田様:
最近では、他の研究プロジェクトからも「Neu Worldのような活動をやってみたい」という声を多くいただいています。この動きが広がることで、研究と社会のつながり方が根本的に変わる未来を目指しています。
ーこのプロジェクトを通じて、技術と社会をつなげるために最も重要だったことは何でしょうか?
- 宮田様:
やはり、このブランドサイトが大きな役割を果たしたと感じています。技術的に難しい内容を誰でもアクセスしやすく、理解しやすい形で届けるため、社会との接続を意識したデザインが非常に重要でした。技術を社会に共有することで、私たちのビジョンがより多くの人々に届いたと感じています。また、単なる研究発表にとどまらず、「未来を一緒に作り出す」というメッセージを社会に伝えられたのは、大きな成果だと思います。
6. Neu Worldのこれから
ニューロテクノロジーが描く未来は、どのように広がり、私たちの生活に根付いていくのか。その次なる挑戦と可能性を探ります。
ーこのプロジェクトの今後の展望を教えていただけますか?
- 宮田様:
今後はニューロテクノロジーの可能性を世界中に届けることを目指しています。これまでは日本国内に焦点を当ててきましたが、海外のクリエイターや研究者と連携し、英語版のコンテンツやブランドサイトを展開中です。翻訳作業も進めており、文化や価値観の違いを理解した上で、海外の方々にも共感を呼ぶ作品づくりを目指しています。さらに、新しい作品の創出に加え、ワークショップや、漫画や小説に留まらない新しいコンテンツの展開も計画しています。ニューロテクノロジーの社会実装を促進するための実証実験や、国内外のパートナーとの協働にも注力していく予定です。
ー海外展開において、文化や価値観の違いをどのように活かしていきたいですか?
- 宮田様:
文化ごとに作品の受け取られ方や課題意識が異なるため、海外のクリエイターと協働し、その地域にフィットする作品を制作したいと考えています。ニューロテクノロジーが未来の社会に与える影響を共に探り、さまざまな価値観を反映した内容にすることで、ただ技術を広めるだけでなく、異なる文化圏で共感を生むことを目指しています。
Neu Worldが描き出すのは、技術と人間の交差点に生まれる新たな可能性。
研究の枠を超え、誰もが未来を共創できる場を築き上げるーーそれが、このプロジェクトの真髄です。
物語は、まだ序章。
ニューロテクノロジーが私たちの日常に溶け込み、未来の文化を形作るその瞬間まで、挑戦は続きます。